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第45話 始まりの宴

Author: 青砥尭杜
last update Last Updated: 2025-03-10 22:00:53

 四歳で魔道顕現発達を終えた時点での類を見ない魔力量を見込まれて、名家として知られたアルティベリス家へ養子として入った孤児という出自でありながら、グロリアやフーガといった同世代の優秀な魔道士を纏め上げ、二十四歳で帝位を簒奪すると大国ではなかったセナート帝国を大陸で覇権を握る大帝国にまで拡大させた皇帝シーマが主催する晩餐会の当日。

 十二月十日の帝都マスクヴァは厚い雲に空を覆われていた。

 夕刻には祝賀晩餐会の開始に合わせて、迎賓館の車寄せへとゲストを乗せた煌びやかな馬車が続々と乗り入れた。

 ゲストであるトゥアタラとヴァルキュリャ、ゲルマニア帝国の首席魔道士であるインテンサ、ガリア共和国の首席魔道士シロン、ビタリ王国で首席魔道士となって一年ほどと他のゲストに比べて日の浅いウアイラの五名は、各々がお付きを付けずに単身で会場入りした。

 祝賀晩餐会の会場は迎賓館の中央に位置する大階段の先にある「暁日の間」だった。

 大きな円卓が広い会場の中央に一卓だけ設置されているという、晩餐会としては異例なセッティングがなされていた。

 五名のゲストが静かに席に着いた頃合いで、ひときわ豪奢な四頭立ての四輪馬車が迎賓館の車寄せへと入った。

 四頭立ての皇帝御用車から、今宵の祝賀晩餐会を主催するシーマがゆっくりと降りる。

 百九十三センチの長身で細身のシーマは、死人のように蒼白い肌と腰まで伸びた銀髪を持ち、切れ長な目に光を帯びる瞳の色はスミレ色をしていた。

 歳を重ねることを拒絶したかのように四十四歳という実年齢にそぐわない若々しさを保つシーマは、周りを威圧する必要のない圧倒的な強者の余裕を纏っていた。

 魔王とも称される皇帝にして太魔範士のシーマが会場である暁日の間に入っても、会場の空気が張りつめるようなことはなかった。

 晩餐会と呼ぶには少なすぎる五名のみのゲストたちは一様に落ち着きを保っていた。

 シーマが席に着くと、迎賓館のスタッフが隣室で待機していたカイトを会場へと呼び込んだ。

 主賓であるカイトが会場へ入ると真っ先にシーマが立ち上がってみせ、拍手でもってカイトを迎えた。

 五名のゲストもシーマに倣い、その場で立ち上がって拍手をもってカイトを迎えた。

 緊張しながらも「ゆっくり、とにかくゆっくり」と胸のうちで唱えながら静かに席へ着いたカイトに合わせて、ゲストの五名も席に座り直した。

 独り立ったままのシーマが、そのまま祝賀晩餐会の始まりを告げる挨拶を始めた。

「今宵の宴は形式張った形だけを取り繕うための晩餐会ではない。カイト卿の称号授与を祝うに際して余の独断をもって、これからのテルスの趨勢を左右するであろう五名にだけ集まってもらった。各国のお飾りに過ぎない君主や元首などは省いた。このような機会はもう訪れぬやもしれん。今宵は互いに胸襟を開き、存分に語り合ってもらいたい」

 言葉を切ったシーマがテーブルのシャンパングラスを手に取って高く掲げる。

 カイトとゲストの五名も合わせてシャンパングラスを手に取って掲げた。

「今宵集いし、珠玉の魔道士たちに、乾杯!」

 シーマの音頭に合わせてゲストも「乾杯」と一斉に発声した。

 シャンパンを飲み干したシーマが着席するタイミングに合わせて前菜が運び込まれる。

 カイトは緊張で乾く口をシャンパンで湿らせながら、彩り豊かな前菜を口に運んだ。

 スープ、魚介料理、肉料理と料理は進み、デザートと紅茶が運び込まれると七人いたウエイターは一斉に退室した。

 ゆったりとワイングラスを傾けたシーマは、ワイングラスを置くのを合図としてカイトに語りかけた。

「カイト卿。卿は異なる世界からこのテルスへと召喚されて、三ヶ月に過ぎないわけだが、その卿から見て、テルスの魔道士はどう映るかな」

 今の自分が置かれた状況を異世界ファンタジーとするならラスボスの魔王だろうシーマからの問い掛けに、カイトは言葉を慎重に探りながら答えた。

「……それは、個々の魔道士についてですか? それとも魔道士や魔道士団というシステムについてですか?」

 カイトが問いの意味を確認することで時間を稼いだのを見透かすように、シーマは会話を先に進めた。

「窮屈そうには見えないだろうか。卿自身も含めて」

「力を持つ者が、一定の束縛を受けるのは当然のことだと思います」

「その力を持つ者が、力を持たぬ者に従うことについては?」

「魔道士は……言ってしまえば生体兵器です。国の管理下に置かれるのは当然かと」

「卿はドラゴンに選ばれ、自らの意思と関係なくミズガルズという島国に召喚され、ミズガルズの魔道士となったのではないかな? 他の魔道士もそうだ。大抵の魔道士は「その国に生まれた」という理由だけで、その国に縛られる魔道士となっている。魔道士の自由とは一体どこに消えたのだろうな」

 模範的な回答でやり過ごそうとしたカイトに対して、シーマが踏み込んでみせた。

 ウアイラの野心的な紅い瞳と沈着なインテンサの灰色の瞳、シロンの穏やかな蒼い瞳とが解答を促すようにカイトへと注がれる。

「俺は……自らの意思でミズガルズ王国の魔道士になりました」

「違うな。卿はドラゴンの意思と、血の繋がりの意思とに流されて、ミズガルズの魔道士となったのだ」

「確かに、俺には他の選択肢は無かった、という側面はあるかもしれませんが……」

「それも違うな。他の選択肢など、いくらでもある。何ならこの場で、我が国に亡命してもいいのだ」

 シーマが放った場を急転させる提言に反応して、トゥアタラの片眉がピクリとわずかに上がる。

 ヴァルキュリャは聞き耳を立てつつ自分の意思を隠すように紅茶のカップに口を付けた。

 急な展開に追い付けないカイトは、ポーカーフェイスを維持できずに目を丸くした。

「なんの冗談ですか?」

 カイトがやっとで口にした一言を軽く払い除けるように、シーマは現状を示すことで畳み掛けた。

「冗談などではない。卿が一言「亡命する」とだけ表明すれば、セナート帝国は慶んで卿を迎える。それはブリタンニアとアメリクスも同様だろう」

 言い切ったシーマが眼球だけを動かし、トゥアタラとヴァルキュリャへ交互に視線を送る。

 トゥアタラとヴァルキュリャは揃って表情を崩さずに無言を貫いた。

 筆頭魔道士団のみでも二十六名の魔道士を抱え、第二から第八までの魔道士団を擁する世界最大の軍事国家であるブリタンニア連合王国の首席魔道士と、急激な発展を遂げた今では世界で最も金を生む経済大国となったアメリクス合衆国の首席魔道士の二人が、無言の肯定を示したことはカイトにも理解ができた。

 戸惑いを隠せないカイトに考える時間を与えるように、シーマはゆっくりとカイトへ視線を戻した。

「カイト卿。卿は聖魔道士であるにもまして余と席を並べる太魔範士なのだ。ミズガルズのような不安定な国に縛られる必要なぞ無いのだよ」

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