Masuk四歳で魔道顕現発達を終えた時点での類を見ない魔力量を見込まれて、名家として知られたアルティベリス家へ養子として入った孤児という出自でありながら、グロリアやフーガといった同世代の優秀な魔道士を纏め上げ、二十四歳で帝位を簒奪すると大国ではなかったセナート帝国を大陸で覇権を握る大帝国にまで拡大させた皇帝シーマが主催する晩餐会の当日。
十二月十日の帝都マスクヴァは厚い雲に空を覆われていた。 夕刻には祝賀晩餐会の開始に合わせて、迎賓館の車寄せへとゲストを乗せた煌びやかな馬車が続々と乗り入れた。 ゲストであるトゥアタラとヴァルキュリャ、ゲルマニア帝国の首席魔道士であるインテンサ、ガリア共和国の首席魔道士シロン、ビタリ王国で首席魔道士となって一年ほどと他のゲストに比べて日の浅いウアイラの五名は、各々がお付きを付けずに単身で会場入りした。 祝賀晩餐会の会場は迎賓館の中央に位置する大階段の先にある「暁日の間」だった。 大きな円卓が広い会場の中央に一卓だけ設置されているという、晩餐会としては異例なセッティングがなされていた。 五名のゲストが静かに席に着いた頃合いで、ひときわ豪奢な四頭立ての四輪馬車が迎賓館の車寄せへと入った。 四頭立ての皇帝御用車から、今宵の祝賀晩餐会を主催するシーマがゆっくりと降りる。 百九十三センチの長身で細身のシーマは、死人のように蒼白い肌と腰まで伸びた銀髪を持ち、切れ長な目に光を帯びる瞳の色はスミレ色をしていた。 歳を重ねることを拒絶したかのように四十四歳という実年齢にそぐわない若々しさを保つシーマは、周りを威圧する必要のない圧倒的な強者の余裕を纏っていた。 魔王とも称される皇帝にして太魔範士のシーマが会場である暁日の間に入っても、会場の空気が張りつめるようなことはなかった。 晩餐会と呼ぶには少なすぎる五名のみのゲストたちは一様に落ち着きを保っていた。 シーマが席に着くと、迎賓館のスタッフが隣室で待機していたカイトを会場へと呼び込んだ。 主賓であるカイトが会場へ入ると真っ先にシーマが立ち上がってみせ、拍手でもってカイトを迎えた。 五名のゲストもシーマに倣い、その場で立ち上がって拍手をもってカイトを迎えた。 緊張しながらも「ゆっくり、とにかくゆっくり」と胸のうちで唱えながら静かに席へ着いたカイトに合わせて、ゲストの五名も席に座り直した。 独り立ったままのシーマが、そのまま祝賀晩餐会の始まりを告げる挨拶を始めた。「今宵の宴は形式張った形だけを取り繕うための晩餐会ではない。カイト卿の称号授与を祝うに際して余の独断をもって、これからのテルスの趨勢を左右するであろう五名にだけ集まってもらった。各国のお飾りに過ぎない君主や元首などは省いた。このような機会はもう訪れぬやもしれん。今宵は互いに胸襟を開き、存分に語り合ってもらいたい」
言葉を切ったシーマがテーブルのシャンパングラスを手に取って高く掲げる。
カイトとゲストの五名も合わせてシャンパングラスを手に取って掲げた。「今宵集いし、珠玉の魔道士たちに、乾杯!」
シーマの音頭に合わせてゲストも「乾杯」と一斉に発声した。
シャンパンを飲み干したシーマが着席するタイミングに合わせて前菜が運び込まれる。 カイトは緊張で乾く口をシャンパンで湿らせながら、彩り豊かな前菜を口に運んだ。 スープ、魚介料理、肉料理と料理は進み、デザートと紅茶が運び込まれると七人いたウエイターは一斉に退室した。 ゆったりとワイングラスを傾けたシーマは、ワイングラスを置くのを合図としてカイトに語りかけた。「カイト卿。卿は異なる世界からこのテルスへと召喚されて、三ヶ月に過ぎないわけだが、その卿から見て、テルスの魔道士はどう映るかな」
今の自分が置かれた状況を異世界ファンタジーとするならラスボスの魔王だろうシーマからの問い掛けに、カイトは言葉を慎重に探りながら答えた。
「……それは、個々の魔道士についてですか? それとも魔道士や魔道士団というシステムについてですか?」
カイトが問いの意味を確認することで時間を稼いだのを見透かすように、シーマは会話を先に進めた。
「窮屈そうには見えないだろうか。卿自身も含めて」
「力を持つ者が、一定の束縛を受けるのは当然のことだと思います」 「その力を持つ者が、力を持たぬ者に従うことについては?」 「魔道士は……言ってしまえば生体兵器です。国の管理下に置かれるのは当然かと」 「卿はドラゴンに選ばれ、自らの意思と関係なくミズガルズという島国に召喚され、ミズガルズの魔道士となったのではないかな? 他の魔道士もそうだ。大抵の魔道士は「その国に生まれた」という理由だけで、その国に縛られる魔道士となっている。魔道士の自由とは一体どこに消えたのだろうな」模範的な回答でやり過ごそうとしたカイトに対して、シーマが踏み込んでみせた。
ウアイラの野心的な紅い瞳と沈着なインテンサの灰色の瞳、シロンの穏やかな蒼い瞳とが解答を促すようにカイトへと注がれる。「俺は……自らの意思でミズガルズ王国の魔道士になりました」
「違うな。卿はドラゴンの意思と、血の繋がりの意思とに流されて、ミズガルズの魔道士となったのだ」 「確かに、俺には他の選択肢は無かった、という側面はあるかもしれませんが……」 「それも違うな。他の選択肢など、いくらでもある。何ならこの場で、我が国に亡命してもいいのだ」シーマが放った場を急転させる提言に反応して、トゥアタラの片眉がピクリとわずかに上がる。
ヴァルキュリャは聞き耳を立てつつ自分の意思を隠すように紅茶のカップに口を付けた。 急な展開に追い付けないカイトは、ポーカーフェイスを維持できずに目を丸くした。「なんの冗談ですか?」
カイトがやっとで口にした一言を軽く払い除けるように、シーマは現状を示すことで畳み掛けた。
「冗談などではない。卿が一言「亡命する」とだけ表明すれば、セナート帝国は慶んで卿を迎える。それはブリタンニアとアメリクスも同様だろう」
言い切ったシーマが眼球だけを動かし、トゥアタラとヴァルキュリャへ交互に視線を送る。
トゥアタラとヴァルキュリャは揃って表情を崩さずに無言を貫いた。 筆頭魔道士団のみでも二十六名の魔道士を抱え、第二から第八までの魔道士団を擁する世界最大の軍事国家であるブリタンニア連合王国の首席魔道士と、急激な発展を遂げた今では世界で最も金を生む経済大国となったアメリクス合衆国の首席魔道士の二人が、無言の肯定を示したことはカイトにも理解ができた。 戸惑いを隠せないカイトに考える時間を与えるように、シーマはゆっくりとカイトへ視線を戻した。「カイト卿。卿は聖魔道士であるにもまして余と席を並べる太魔範士なのだ。ミズガルズのような不安定な国に縛られる必要なぞ無いのだよ」
乾杯を済ませた八人の前には、彩り豊かな料理が次々と饗された。 レジアスの特産である様々な海鮮を多用した料理に各々が舌鼓を打ちつつ歓談する中で、この席での本題を切り出したのはアルシオーネだった。「異世界から召喚されてからのおよそ十ヶ月。カイト卿は就任した直後より我らトワゾンドール魔道士団の首席としての責を全うされておられます。それを踏まえた上で、敢えて問います。卿は実父であるダイキ卿のことを、どのように捉えておられますか」 アルシオーネの問い掛けは晩餐の席につく皆の手をピタッと止めたが、カイトだけは手を止めることもなく即座に返答した。「裏切り者です」 避けられない問いだと覚悟していたカイトが、前もって用意していた答えは単純だからこそ明確なものだった。「重ねて問います。裏切りに対する、断罪の意思はお有りですか」 続くアルシオーネの問いにも、カイトは「もちろんです」と短く即答した。「実の父親であっても、そこに躊躇はないと?」「父親だからこそ、です。既にラブリュス魔道士団の第13席次という立場にある父を、表立って非難できるのは実の息子である俺しかいないでしょうから」 第三席次を背負う深紅の強い眼光から目をそらさず答えたカイトに対し、アルシオーネは深い首肯を返した。「そうですか。カイト卿の御覚悟を聞くことが叶い安堵しました。御存知かと思いますが……先のペアホース防衛戦において、我がファリーナ家の分家に当たるマルティン家の、フォレスターとインプレッサの親子は戦死しています」「はい。聞きいています」「インプレッサと私は同い年で、魔道士官学校でも同期でした。父であるフォレスター譲りの勇猛さと、周りを明るくする明朗さを併せ持つ、気持ちの良い男でした……もし赦されるなら、私の手で仇を討ちたいという思いは捨て切れません」「……アルシオーネ卿のお気持ちは、しかと受け取りました。俺の首席としての役目は、第一に戦争を回避することであると認識していますが、同時にセナート帝国との衝突は不可避であるとも俺は認識しています。その際にはアルシオーネ卿の力を遺憾なく発揮していただきたいと、俺個人は思っています」 カイトの言葉を聞いたアルシオーネの、深紅の眼光が鋭さを増す。「衝突は不可避、ですか」「はい。セナート帝国はいずれ攻めてくるでしょう。地政学からいってもミズガル
「ストーリア・アナンと申します。お目もじが叶い光栄です」 握手に応じたストーリアの緊張を和らげるように、アルシオーネは穏やかな口調で応じた。「私に緊張する必要はありませんよ。女性同士のほうが口にしやすいこともあるでしょう。滞在中の用向きは遠慮なく私に仰ってください」「恐れ入ります」 頭を下げるストーリアの前へ進み出たレオーネは、膝を折ってストーリアの右手をそっと取った。「レオーネ・ファリーナと申します。お見知り置き願います」「ストーリア・アナンと申します。お目もじが叶い光栄です」「レジアスに滞在される間の護衛には私が当たりますので、どうか安心してレジアスでの滞在を楽しんでください」「はい。ありがとうございます」 レオーネの挨拶をストーリアの背後で聞いていたセリカは、軽口にも近い気楽な口調でレオーネへ声を掛けた。「ストーリア殿の護衛なら間に合ってるよ」 セリカの声に反応したレオーネは、にやりと笑みを浮かべて立ち上がった。「元気そうだな、セリカ。アルテッツァ卿とは変わらずか?」「ああ。レオーネこそ相変わらずのようだ」「久々に酌み交わすのが待てなくて、店はもう用意してある」「それは重畳。私も肴になる話はたっぷり用意してある」「そうか。それは一層楽しみだ」 打ち解けたやり取りをみせるセリカとレオーネの様子にストーリアがきょとんとしていると、セリカがストーリアへの説明を口にした。「レオーネと私は、王都の魔道士官学校で同期だったんです」「ああ、そうなのですね」 ストーリアが納得を声に込めて答えたタイミングで、アルシオーネが女性としては低く落ち着いており良く通る声で「さて」と会話を次へ進めた。「立ち話はこれぐらいにして、続きはワインでのどを潤してからとしましょう。本邸へ御案内します」 港の中央に位置するファリーナ家専用の車寄せには、ファリーナの権勢を誇示するようにきらびやかな3輛の屋根付き二頭立ての四輪馬車が並んで待機していた。 アルシオーネとレオーネ、カイトとストーリア、セリカとピリカが各々分乗する形で馬車へ乗り込み、オリムパス号のクルーがそれぞれの荷物を馬車へと運び入れた。 カイトらのレジアスでの滞在予定は一週間であり、その間はオリムパス号も逗留するとあってクルーたちの表情は揃って上機嫌なものだった。 荷物を積み込み終えた若
挙式から約半月が経過した7月2日。カイトとストーリアは新婚旅行へと出立した。 ミズガルズ王国にとって戦略的に重要なチョークポイントである、南西に位置するペアホース海峡と北東に位置するラペルーズ海峡への視察を兼ねたものだったが、半ば職務への随行となったことにストーリアが不平を漏らすことはなかった。 新郎新婦の護衛として随行したのは、セリカとピリカの二人だった。 ペアホース海峡へと向かう四人が乗り込んだのは、カイトとセリカにとっては見覚えのある客船だった。「このオリムパス号が、お二人の新婚旅行に花を添えることをお約束しましょう」 恰幅のいい船長は満面の笑みで、乗船したカイトへの歓待の意を示した。「シルバラード船長の船にまた乗れるなんて、俺は幸運ですね」 カイトも笑みで応じてシルバラードとの握手を交わした。「幸運なのは私どものほうですよ。カイト卿の乗船にクルーの意気も上がっております」「それはありがたいです。よろしくお願いします」 頭を下げるカイトの姿に触れたシルバラードが、ガハハと豪快に笑う。「腰が低いのは相変わらずのようですな。前回のように、クルーにも声を掛けてやってください。大喜びしますので」「はい。そうさせてもらいます」 オリムパス号は予定時刻の正午に鳴る時の鐘に汽笛を重ね、最初の目的地となるペアホース海峡に接するレガシィ領のレジアス港へ向けて出港した。 レガシィ領はミズガルズ王国の西端に位置しており、日本列島に似た地形であるミズガルズ列島の西、日本で言えば九州に相当するエリアだった。 御三家と呼ばれる有力貴族の中でも最大の勢力を誇るファリーナ家が治める地で、国土の西を広範囲に抑えるファリーナ家は鎮西家とも呼ばれていた。 ストーリアの生家であるカストリオタ家はファリーナ家の分家に当たり、その領地は日本で言えば四国に相当するエリアの一部だった。 レジアス港はミズガルズ王国にとって最重要に位置付けられる港湾であり、港湾都市であるレジアスは太古からアフラシア大陸との交易の中心であって、今の王室が成立する以前から外交を担っていた長い歴史を有する古都でもあった。 歴史的な背景もあって独立性の高い気風が根差しており、ファリーナ家はその気風を支える精神的な支柱としても機能していた。 王都のプログレ港を出港したオリムパス号が、レジアス港へ
晴れて夫婦となったカイトとストーリアが、結婚を機に延び延びとなっていた引っ越しを披露宴前日までに済ませた二人の新居へと戻ったのは、6月の太陽がすっかり沈んだ頃合いだった。 サイオン公爵としてサイオン領を拝領しているカイトではあったが、筆頭魔道士の首席魔道士としての職務を優先させ、王宮からほど近い位置にある王都の中でも有力な貴族の所有する屋敷の建ち並ぶエリアが二人の新居として選ばれた。 御三家の中でも王都に最も多くの土地を所有するガンディーニ家の所有していた屋敷を王室が買い取り、改装された屋敷は公爵でもあるカイトが構える屋敷としては最小限の大きさに抑えられた。 カイトの希望を宰相セルシオが聞き入れた結果として選ばれた小振りな屋敷は、ストーリアの希望もあってそこで働く使用人も最小限に抑えられた。 使用人の面談などはストーリアがすべて行い、それがストーリアにとってサイオン公爵夫人としての最初の仕事となった。 主である二人の帰宅を待っていた使用人たちにストーリアが本日の業務終了を告げてから、食堂へと移動したカイトとストーリアは互いにどこか落ち着かなかった。「なにか飲まれますか?」「ああ、そうだね……いや、自分で淹れるよ」「では、わたしは湯浴みしてまいります」「うん……」 食堂に残ったカイトは酔い醒ましのハーブティーを淹れることにした。 何か体を動かしていないと落ち着かない自分を少し情けなくも思ったが、初夜を前にして湯浴みしている妻を悠々と待っているだけの胆力など今の自分にはないとカイトは自認していた。 カイトが食堂でハーブティーを飲んでいると、湯浴みを終えたストーリアがシルクの寝衣で現れた。 頬をかすかに上気させたストーリアが、カイトの目にはやけに艶めかしく映った。「カイト様も湯浴みなさいますか?」「あ、ああ、うん。そうするよ……そうだ、ストーリアにお願いがあるんだけど」「なんでしょうか?」「俺に対しての敬語はもう無しにしない?」 カイトの提案を聞いたストーリアが右手の人差し指を頬にあて、少し迷った顔を作ってみせる。「そうですね。努力してみますが、すぐには難しいです」「そうか。うん、分かった。おいおいだね。じゃあ、湯浴みしてくるよ……あ、もう一つだけお願いがあって……」「なんでしょう?」「これからは寝るときに香水はつけないで欲
激動の聖暦1890年に、青葉の薫りを運ぶ爽やかな風が吹き抜ける6月の15日。 カイト・アナンとストーリア・カストリオタ両人の挙式がレザレクション大聖堂で執り行われた。 6月中の挙式という新郎新婦の希望を尊重した宰相セルシオの配慮により、ミズガルズ王国の筆頭魔道士団の首席魔道士であり王配直系の公爵でもあるカイトの結婚式としては、異例の短い準備と告知の期間による挙式と披露宴となった。 天候に恵まれた日曜日の大聖堂には、王国の英雄として人気を博すカイトの結婚を祝うため多くの人々が朝から詰めかけていた。 当初、カイトは結婚式を家族を中心とした小規模なものに出来ないかと希望を伝えてみたが、それはセルシオによって即座に却下された。「我が国の首席魔道士であり、対外的にも最重要人物である卿の挙式は、国家行事に等しいものです」 セルシオの言葉は真っ当なもので、ストーリアも同様の理解を示したため、カイトは宰相の決定を受け入れざるを得なかった。 カイトの結婚に際しては王家の中で一悶着もあった。 王配であるケンゾーの孫に当たるカイトの結婚相手は、タンドラ王太子の長女であるヴェルデ王女というのが半ば暗黙の了解として、王家全体の意向となっていたのが原因だった。 カイトをテルスへと召喚した術式を構築したヴェルデ本人も、自身がカイトの妻となるのは当然だと認識していた。 女王セルリアンとケンゾーの長子であるタンドラ王太子はカイトに対し、ヴェルデを正妻としてストーリアは公妾、いわゆる側室という形で迎え入れてはどうかと、二人きりでの面談の席を設けて提案をした。 カイトはその席での返答は保留し、ケンゾーとセルリアンにストーリアを本妻とするための協力を申し出た。 ケンゾーはすんなり快諾し、セルリアンも王太子側との関係を憂慮しつつも了承した。 タンドラ王太子も女王の意向とあっては表立っての反対は取れず、カイトがストーリアを本妻として迎え入れる結婚を阻止することを断念した。「あなたはストーリアを妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」 大司教からの誓約の問い掛けに答えたカイトとストーリアは、観衆から送られる祝福の声に応えつつ儀装馬車へ乗り込み、披
「えっ……」 目を丸くするストーリアに、カイトがあたふたする自分を隠さずに声を掛ける。「驚くよね、そりゃ。ほんとに急で、ごめん」「はい……そうですね。驚いてしまいました」「だよね……」 カイトは続ける言葉を探した。 帰国する船上で幾度となく言葉を組み立てていたつもりだったが、実際に初めてのプロポーズとなるとシミュレーションした通りには言葉を続けることが出来なかった。 カイトの動揺を察して、先に口を開いたのはストーリアだった。「わたしで、よろしいんですね?」 カイトは強く大きな首肯を返すと、今回の遠征の間に考えていたことをストーリアへ率直に伝えようと決めた。「俺には何があっても帰らなきゃいけない場所が必要なんだって……思ったんだ。それが無いと俺は、いざって時に自分が背負ってる重責とか立場から逃げるっていう選択肢を、頭の片隅にキープし続けちゃうんだろうなって……。ストーリアと築く家庭を、俺の還るべき場所にさせて欲しい……身勝手な申し出なのは分かってる。でも今の俺には、ストーリア以外は考えられなかった」 カイトの飾らない本心から出る言葉を、まっすぐな目で受け留めていたストーリアは一度ゆっくりとまばたきしてから答えた。「わたしは離れませんよ? それでも、よろしいんですか?」「うん、もちろん。俺も離れる気はないよ」「……分かりました。カイト様の還る場所は、わたしがつくります」 快諾の返答を聞いて全身の緊張が一気に解けたカイトを、まっすぐに見つめたストーリアは、「ただし、一つだけ条件があります」 と真剣な表情で言葉を続けた。「条件……なにかな?」 肩をふたたび強張らせるカイトに向けて、ストーリアは真剣な眼差しのまま条件を告げた。「もし、わたしの身に何かあっても、自分と結婚したせいだと御自身を責めないでください。それが条件です」 ストーリアが口にした条件が、思いもしなかったものだったことにカイトは驚きを隠せなかった。「……ごめん。俺と結婚することで、ストーリアの身に危険が及ぶって可能性を、俺は深く考えられてなかった……」 自身の浅慮を詫びるカイトに向けて、ストーリアは微笑みかけた。「万が一、もしもの話です。カイト様はこの国の英雄であり、世界の英雄となられる存在。英雄たる方の妻が何も負うものが無いなんてことはあり得ません。ただ、わた